海境

波立つ急潮、真逆に流れる潮のぶつかり合い、龍が水面下を泳ぐかのように渦巻く一方、その所々で油が浮くかの如くトローっと海底から潮が湧き上がる海。ついさっきまで引いていたのに、気づけば音もなく忍び寄り、飲み込まんとばかりに自分の身長を容易に超えてくる巨大な潮汐。

穏やかな瀬戸内海というイメージとは裏腹に、あからさまではないが、じわじわと死を感じさせるような、静かな塩飽の海の厳しさを感じた。

「海の中は人が生きられん世界やからなぁ」
「死にそうになった体験は山ほどある」
「今自分がどこを向いているか分からんくなる時は怖いな」
「潜水漁の4ヶ月間は、自分も家族もピリピリする。もしものことが起きても、みんな覚悟しとる」
「管が詰まって酸素が供給されなくなった時、あと20秒、陸に上がるまで息が保つかな、そう思った」
「海の中から梯子が見えた時、助かったと思った」

もしかしたら水面は生と死の境界、更にはこの世とあの世、日常と非日常を隔てる境界とも言えるのではないか。ならば約6時間おきに陸(人が生きられる世界)になったり、水中(人が生きられない世界)になったりする波打ち際のように、それらの両者の間には不思議な中間領域があり、その境界線は現れては消え、消えては現れる、そんな気がしてならない。

そしてこの塩飽の海と直に関わる本島の漁師さんの言葉から、生きるとはこういうことだと、どこかこのことを覚悟しているように感じられるのだ。

Unasaka

The rise of rapid tides, collisions of currents flowing in opposite directions – swirling as if a dragon was swimming underneath the surface, springing from the bottom of the sea… The low tide was there moments ago – but when I look again I notice it has moved. The edge of the sea approaches without any sounds, easily rising above my height, as if it were trying to swallow me.

I feel that the Shiwaku Sea is subtle, yet it has a harshness reminiscent of death.

“People cannot live under the sea”
“A lot of times I thought I would die”
“It is a terrible moment to lose the sense of direction”
“During four months of diving and fishing, my family and I have been tense and everyone is prepared for the worst”
“When the tube clogged and no longer supplied oxygen, I questioned myself; will I be able to hold my breath another 20 seconds before reaching the surface”
“When I saw the ladder from under the surface, I felt I had finally been saved”

The water surface is a border between life and death, world and afterworld, reality and fiction. There’s an intermediate realm between the two. Like a beach where circumstances alternate every 6 hours, the borderline appearing and disappearing: land (where people can live) and under water (where people cannot live).

From the words of the fishermen on Honjima, who are directly related to the Shiwaku Sea, it seems that they know this is the only way of life and they are prepared to live after the rules that come with it.







海境
水面のこちら側とあちら側で

Installation
2019
ミクスドメディア
築100年を超える古民家、塩飽家全体を使ったインスタレーション
瀬戸内国際芸術祭2019 本島


本島での2ヶ月間の滞在制作の中で、地元の潜水漁を営む漁師さんたちから伺った自然観や体験談、そして自らが塩飽の海の複雑な潮流と巨大な干満差に恐怖を感じた体験を元に、かつての網元の家である築100年以上の古民家、塩飽家にて、本島の人々と海との関わりを題材に制作した体験型のインスタレーションである。

インスタレーションは映像、漁師さんの言葉、海図、スモークと光を使用して室内に出現させた架空の海から成る。スモークは床下や室内に入り込むすきま風にのって動き、実際の海と同じ原理で複雑な潮流と渦を描く。スモークはその日の気温や風力に影響される為、海が荒れる日は室内の水面も荒れるように、野外と室内の動きが連動する。更には鑑賞者の動きにも影響される為、常に唯一無二の水面の様子が立ち現れる。

鑑賞者は最初の部屋で眼下に広がる水面を目撃し、次の部屋では波打ち際の上下する水位変化の中を進み、最後の部屋では頭上に水面が広がり、天井から垂れ下がる、潜水士が実際に使用していた命綱を目で追っていくと、水面越しに船底が見え、そこで初めて、自分がいつのまにか海底にいることを体験する。

インスタレーションは水面によって隔てられた2つの世界、陸上(人が生きられる世界)と水中(人間が生きられない世界)を意識させ、そこに命がけで立ち向かう潜水士を重ねることで、改めて人間の基本的な営みー我々と海との関わりとは、生死の境とは、生きることとは、食料を得ることとは何か、を考察する。

この作品を制作するにあたり、島民の皆様、ならびに多くの方々から多大なるご協力を頂きました。心から感謝申し上げます。誠にありがとうございました。

Unasaka in-between water surface

Installation
2019
mixed media
The installation using whole house, Shiwakuya that stands in honjima over 100years
Setouchi Triennale 2019 in Honjima


In the producing of this work, I’ve gained great cooperation from people in Honjima and many others too. I deeply and sincerely appreciate all of You. Thank you so much.